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森見登美彦「恋文の技術」

森見登美彦「恋文の技術」を読みました。

めちゃめちゃというほどではないけど、結構面白かった。 そして、かなり好きだなーと。 恋愛実用書として、大学院生時代の経験を活かした私小説として、物語として、読みどころがありました。

([も]3-1)恋文の技術 (ポプラ文庫)

([も]3-1)恋文の技術 (ポプラ文庫)

とにかく、発想で勝ってるよね。

この小説はいわゆる書簡小説というもの。 注目すべきは、主人公の守田一郎からの書簡「のみ」で描かれているところ。

すべての文章が、森見作品主人公のあの独特なテイストの独白・・・、なんて贅沢な小説・・・。

~あらすじ~

クラゲ研究のため○○大学大学院から能登鹿島の人里離れた実験所に派遣された主人公・守田一郎は、寂しさを紛らわすために、京都の友人や妹に次々と手紙を送りつける。 話題は、実験所の鬼軍曹・谷口さんに対する愚痴だったり、友人・小松崎くんの恋路だったり、悪名高き大塚先輩とのバトルだったり・・・、そして、片思いの相手・伊吹さんに思いを打ち明けるために密かに開発している「恋文の技術」のことだった!

実用的(帯にも書いてる)

「恋文の技術」とは、意中の人を手紙一本でたちまち籠絡する文章技術のこと。もちろん、そんな技術は最後まで確立されることはない。 むしろ、失敗を繰り返すうちに、守田くんの恋文への認識は少しずつ変化していった。 その過程がすごくロマンチックだな・・・と思った。

恋文を書くうえで、一番大切なのは「恋文を書こうとしないこと」。

成果が出ないあたりに好感が持てる

同じ理系大学院生の身として、 僻地の実験所に飛ばされる守田くんには同情し、応援したくなる。 応援したくなるけど、成果が出ない守田くんを見て、ほっとする。

正直、途中はダレます

書簡形式だけに、常にストーリーがダイジェストで進んでいくため、章内の話のテンポはいい。 しかしながら、章間で見ると、同じ話が繰り返されて、・・・ダレます。

小松崎くんの恋路や「おっぱい万歳」などについて、いろんな人との往復書簡をもって、少しずつ真相が見えてくる(真相ってほどのものでもないが)。 ここでおもしろいのは、直接「いろんな人」の視点(つまり大塚先輩や小松崎くんからの書簡)として事件が描かれるわけではなく、その書簡への守田くんの「返信」でもって表現されるというところ。 実に想像力を掻き立ててくれる面白い手法だと思う。

なんだけど、これは、物語として諸刃の剣な気がして。 まず、結局同じ話の繰り返しというところ。 そして、ぜんぶ守田くんの主観になってしまうところ。 せっかく群像劇的なドラマ構成になっているのに、ぜんぶ守田くんが思ったことを中心に描かれているから、結局同じ。飽きる、ということ。

もちろん、送る相手、送るタイミングによって、守田くんの心情が少しずつ変わってくるところもある。

恋文代筆業

繰り返し申し上げると、この小説は守田くんからの書簡だけで構成されている。

なのに、終盤の第十一話(章)「大文字山への招待状」で、他の人からの手紙と題した書簡が掲載されている。 たとえば、小松崎くんから三枝さんへの恋文、谷口さんと大塚先輩のイチャイチャ往復書簡など。

しかし、これぜんぶ守田くんが代筆したものなんです。

既に恋仲にある二人の恋文を勝手に代筆って非常にイタい・・・。 とはいえ、この代筆書簡に書かれている守田くんの人間像が、意外と「守田くんの書簡をずっと読んできた読者の私が守田くんに抱いている印象」と一致するものだから、守田くんは意外と自分や周りのことを客観的に見ているタイプなのかな。

最後の最後に叙述的技巧を織り交ぜてくる変化球っぷりに驚きました。

教訓はない

恋文の技術については色々と思うところがある。

文中で「教訓はない」と何度も繰り返される。 教訓がないことが教訓なのかな。